研究内容

孤立空間の化学

特異な分子認識能

 

ペプチドの配列特異的認識
 
 我々は自己集合性かご型錯体内に、ペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基が3つまで収容され、その際に、特定のアミノ酸残基配列が強く認識されることを明 らかにした。種々のトリペプチドを合成し、水溶液中でその認識挙動を調べたところ、Ac-W-W-A-NH2(W = トリプトファン残基、A = アラニン残基)からなるペプチドが10の6乗以上の会合定数で強く認識されることを見出した。配列の順序を変えたAc-W-A-W-NH2やAc-A- W-W-NH2、あるいは性質の近い残基で変異させたAc-W-W-G-NH2(G = グリシン残基)やAc-W-Y-A-NH2 (Y = チロシン残基)では、いずれも10の4乗台まで会合定数が低下した。Ac-W-W-A-NH2の包接錯体の結晶構造解析により、電荷移動をともなうπ-π スタッキングと、アラニン上のメチル基との効果的なCH-π相互作用が協奏的に働き、W-W-A配列を特異認識することが明らかになった。10残基を有す るオリゴペプチドからも、W-W-A部位が特異的に認識された。
 

参考論文

  • "Cavity-Directed Synthesis within a Self-Assembled Coordination Cage: Highly Selective [2+2] Cross Photodimerization of Olefins"
    M. Yoshizawa, Y. Takeyama, T. Okano, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 3243-3247

  • "Remarkable acceleration of Diels-Alder reactions in a self-assembled coordination cage"
    T. Kusukawa, T. Nakai, T. Okano, and M. Fujita
    Chem. Lett. 2003, 32, 284-285

  • "Alkane Oxidation via Photochemical Excitation of a Self-Assembled Molecular Cage"
    M. Yoshizawa, S. Miyagi, M. Kawano, K. Ishiguro, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 9172-9173

  • "Selective Enclathration of Linear Alkanols by a Self-Assembled Coordination Cage. Application to the Catalytic Wacker Oxidation of w-Alkenols"
    M. Yoshizawa, N. Sato, and M. Fujita
    Chem. Lett. 2005, 1392-1393


平面状分子の有限集積


平面状分子の有限集積

 芳香族分子は集積することで、分子単独では見られない特異な性質を示すことが知られている。例えば、電荷移動錯体や液晶などが挙げられる。しかしながら、その中間に位置する有限な集積体を合成する有効な手段は報告されていない。我々は有機ピラー型のかご状錯体内で、ピレンやコロネンなどの大きな芳香族分子が有限に集積することを見出した。集積する分子数は、かご状錯体のピラー配位子の長さで厳密に制御できる。実際、芳香族分子を1枚から3枚まで集積することに成功した。また、錯体内では、集積分子の数や種類、順序に起因した特異な分光学的性質が観測された。
 

参考論文

 
  • "Discrete Stacking of Large Aromatic Molecules within Organic-Pillared Coordination Cages"
    M. Yoshizawa, J. Nakagawa, K. Kumazawa, M. Nagao, M. Kawano, T. Ozeki, and M. Fujita
    Angew. Chem. Int. Ed., 2005, 44, 1810-1813

  • "Metal-Metal d-d Interaction through the Discrete Stacking of Mononuclear M(II) Complexs (M = Pt, Pd, and Cu) within an Organic-Pillared Coordination Cage"
    M. Yoshizawa, K. Ono, K. Kumazawa, T. Kato, and M. Fujita J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 10800-10801

  • "Room-Temperature and Solution-State Observation of the Mixed-Valence Cation Radical Dimer of Tetrathiafulvalene, [(TTF)2]+・, within a Self-Assembled Cage"
    M. Yoshizawa, K. Kumazawa, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 13456-13457


孤立空間における物性制御


空間を介したスピン-スピン相互作用

 有機ラジカル間の相互作用の制御は磁性材料を分子レベルで設計する上で極めて重要である。一般にスピン-スピン相互作用は距離の3乗に逆比例するため、共有(もしくは非共有)結合で連結しないかぎり観測が困難である。我々はある種の有機ラジカルが、M6L4型のかご型錯体に包接されると、空間を介してスピン-スピン相互作用することを明らかにした。ゲストに用いたラジカル分子は分子間に何ら結合力が働かないため、通常の溶液中ではもちろんのこと、結晶中でもラジカル中心同士が遠ざかった配列をとり、孤立した二重項で観測される。しかし、粉末状のラジカルをかご型錯体の水溶液に懸濁させるだけで、2分子のラジカルが錯体の内部空孔にとりこまれ、2:1包接錯体が生成する。この時、スピン間の相互作用によりラジカルは三重項で観測されることが明らかとなった。包接錯体のX線結晶構造解析の結果、ラジカル2分子はスピン中心が極めて近接するジオメトリー(5.8 Å)で包接されていることがわかった。溶液中、結合力を持たない分子間でスピン-スピン相互作用を観測した初めての例である。2分子の有機ラジカルは疎水性相互作用でゆるやかに認識されているだけなので、熱的にスイッチングが可能である。すなわち、高温では三重項状態は消失し、低温では顕著となった。さらに、溶液のpHに応答したでスピン-スピン相互作用の誘起にも成功した。 
 

参考論文

  • "Cavity-Induced Spin-Spin Interaction between Organic Radicals within a Self-Assembled Coordination Cage"
    K. Nakabayashi, M. Kawano, M. Yoshizawa, S. Ohkoshi, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 16694-16695

  • "A pH-Switchable Through-Space Interaction of Organic Radicals within a Self-Assembled Coordination Cage"
    K. Nakabayashi, M. Kawano, and M. Fujita
    Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 5322-5325

  • "Metal-Metal d-d Interaction through the Discrete Stacking of Mononuclear M(II) Complexs (M = Pt, Pd, and Cu) within an Organic-Pillared Coordination Cage"
    M. Yoshizawa, K. Ono, K. Kumazawa, T. Kato, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 10800-10801


不安定分子種の安定化


水クラスターの形成:モレキュラーアイス

 水の特徴的な性質の一つに、疎水性基質の表面で水素結合ネットワークを発達させ、水分子の高い極性を中和しながら自らが“疎水的”になることが挙げられる。このようなネットワークの形成により、メタンハイドレートのような安定な水-有機物複合体ができることが知られている。そこで我々は、水素結合ネットワークが疎水的な分子の内面でも形成するものと考え、自己集合性かご状錯体の大きな疎水性空間における水クラスターの生成を調べた。かご状錯体を水から再結晶し、結晶構造解析をしたところ、内部には水10分子が規則正しく配列し、アダマンタン型のクラスターを形成していることがわかった。この水10分子クラスターは、天然に存在するIc型の氷結晶構造の最小単位であることから、「1分子の氷(モレキュラーアイス)」とみなすことができる。 
 

参考論文

  • "Endohedral Clusterization of Ten Water Molecules into a Molecular Ice within the Hydrophobic Pocket of a Self-Assembled Cage"
    M. Yoshizawa, T. Kusukawa, M. Kawano, T. Ohhara, I. Tanaka, K. Kurihara, N. Niimura, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 2798-2799

  • "Room-Temperature and Solution-State Observation of the Mixed-Valence Cation Radical Dimer of Tetrathiafulvalene, [(TTF)2]+・, within a Self-Assembled Cage"
    M. Yoshizawa, K. Kumazawa, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 13456-13457


新奇反応の開発


アルカンの特異的光酸化反応

 我々は自己集合性のかご型錯体内で、オレフィンの分子間[2+2]光環化反応が立体選択的に進行することを見出している。この反応では、かご型錯体は反応空間を提供しているが、光反応には直接関与していない。一方、光を吸収しないアルカン分子をかご型錯体にとじこめ光照射したところ、かご型錯体から基質へのエネルギー移動を経てアルカンの光酸化が進行することを見出した。実際、かご型錯体とアダマンタンの1:4包接体の水溶液に、脱気条件下で光照射すると、溶液は青色に変化し、1-アダマンタノールおよびアダマンチルハイドロパーオキサイドが生成した。青色種は酸素に不安定であることとそのESR測定から、ラジカル種であることが明らかになった。かご型錯体の配位子は3箇所の金属配位のため極端な電子不足であることから、光励起によりアダマンタンからの電子移動がすみやかに起こり、みずからはラジカル(青色)となる。アダマンタンはH+とアダマンタンラジカルに解裂し、生成したラジカルが水(または酸素)と反応し、酸化生成物を与えると考えている。X線結晶構造解析から、錯体の配位子(トリアジン環)とアダマンタンの橋頭位C-H結合が極めて近接していることが効率の良い電子移動の必須条件と考えられる。
 

参考論文

  • "Cavity-Directed Synthesis within a Self-Assembled Coordination Cage: Highly Selective [2+2] Cross Photodimerization of Olefins"
    M. Yoshizawa, Y. Takeyama, T. Okano, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 3243-3247

  • "Remarkable acceleration of Diels-Alder reactions in a self-assembled coordination cage"
    T. Kusukawa, T. Nakai, T. Okano, and M. Fujita
    Chem. Lett. 2003, 32, 284-285

  • "Alkane Oxidation via Photochemical Excitation of a Self-Assembled Molecular Cage"
    M. Yoshizawa, S. Miyagi, M. Kawano, K. Ishiguro, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 9172-9173

  • "Selective Enclathration of Linear Alkanols by a Self-Assembled Coordination Cage. Application to the Catalytic Wacker Oxidation of w-Alkenols"
    M. Yoshizawa, N. Sato, and M. Fujita
    Chem. Lett. 2005, 1392-1393