球状構造の自己組織化
M12L24型 球状錯体の自己集合
藤田研究室では様々なタイプの配位子と遷移金属との組み合わせから、異なる骨格を持つ自己組織性錯体の合成を行ってきた.最もシンプルな配位子の一つが4,4'-ビピリジルであり、この配位子は2つの配位部位が180°正反対を向いている直線状の二座配位子である。4,4'-ビピリジルと、平面四配位型の2価パラジウムとからは平面的に正方形の格子が無限に広がった無限錯体が得られる。我々は、この2座配位子の角度を変化させるだけで異なる自己集合性錯体を構築できるのではないかと考え、様々な配位子を合成し錯形成反応を検討した。
フラン、またはベンゼンなどの剛直な平面性分子に、2つのピリジル基を結合することで、2つの配位部位が120°の方向を持つ折れ曲がった二座配位子を合成できる。興味深いことにこの配位子(L: Ligandの略)と2価パラジウム(M: Metalの略)とからは、M12L24の組成を持つ、これまでで最も巨大な自己組織性錯体が得られた。その外直径は3.5 nmにも及び、フラーレンC60の外直径が1 nmであることと比較してもいかに巨大な錯体が構築できたかがわかる。このように巨大な分子の構造決定は当初困難であったが、1次元1H NMRの解析によりcuboctahedronという高い対称性を持つことが示唆され、CSI-MSの解析からM12L24組成であることが確認された。さらに、1H NMRを用いた拡散係数の測定(DOSY)や、STM/AFMの測定から外直径3.5 nmの巨大構造を持つことが支持された。最終的には、単結晶を得ることに成功し、高エネルギー加速器研究機構の放射光を用いた単結晶X線結晶構造解析によって、明確に分子構造を決定することができた。
参考論文
- "Finite, Spherical Coordination Networks that Self-Organize from 36 Small Components"
M. Tominaga, K. Suzuki, M. Kawano, T. Kusukawa, T. Ozeki, S. Sakamoto, K. Yamaguchi, and M. Fujita
Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5621-5625.
球状錯体の表面官能基化
球状錯体の構造を詳細に見てみると、折れ曲がった配位子は球の外面にその角を向けていることがわかる。すなわち、この配位子の折れ曲がった部分の外側に置換基を導入すれば、球状錯体の外面を官能基化できる一方、内側に置換基を導入すれば、球状錯体の内面を官能基化できると考えられる。
実際にフラーレンやポルフィリンを折れ曲がり部分の外側に持つ配位子を設計し合成した。2価パラジウムとの錯形成を検討したところ、予想通り、同じ骨格を持つM12L24球状錯体が得られた。この錯体は直径が1 nmにもおよぶフラーレンやポルフィリンを導入することで外直径が最大で7 nmにも及んでいる。通常、これほど巨大な構造体の化学修飾では、導入した置換基の数や位置を制御することは極めて困難である。しかし、この球状錯体の場合は、官能基(R: フラーレンまたはポルフィリン)を1つ持つように精密に有機合成した配位子(L)を用いているので、M12L24 球状錯体では正確に24個の置換基Rが原子単位で位置を制御して表面に整列している。今後、機能の発現を目指した検討を行う際には、構造と機能との相関を精密に議論できるため、極めて興味深い錯体であると考えている。
参考論文
- "Finite, Spherical Coordination Networks that Self-Organize from 36 Small Components"
M. Tominaga, K. Suzuki, M. Kawano, T. Kusukawa, T. Ozeki, S. Sakamoto, K. Yamaguchi, and M. Fujita
Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5621-5625.
球状錯体の内面官能基化
内面の官能基化はより困難であった。なぜならば、折れ曲がった配位子の内側に官能基を導入すると 両脇のピリジル基との立体障害によって配位子が歪み、M12L24球状錯体が得られなくなってしまうからである。 そこで、我々は、直線の棒状のアセチレンをスペーサーとして、ピリジ ル基と中央のベンゼン環の間に導入すれば、 内側の官能基とピリジル基との立体障害を解消できると考えた。実際に このような設計の分子を配位子として 用いれば内側に24個の官能基を持つ球状錯体を合成することがで きた。さらに興味深いことには、 官能基としてポリエチレンオキシド鎖を導入した球状錯体は、24 個のランタンイオン(La3+)を取り込むことを 明らかにできた。すなわち、球状錯体の中にあるポリエチレンオキシド 鎖の一本一本が、それぞれ1つの ランタンイオンと相互作用することがわかった。錯体を溶解させている 溶媒を変えることで、取り込んだ ランタンイオンを再び錯体から放出させることにも成功しており、様々 な実用的な応用可能性を十分に持つ 錯体であると考えている。
参考論文
- "24-Fold Endohedral Functionalization of a Self-assembled M12L24 Coordination Nanoball"
M. Tominaga, K. Suzuki, T. Murase, and M. Fujita
J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 11950-11951.