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藤田研究室 - 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 > 研究内容 > 多面体構造の自己組織化
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多面体構造の自己組織化
- 分子パネリング -

M6L4型かご状錯体の自己集合


 
 我々は、(en)Pd(NO3)2錯体[M]とトリアジンコアを有するピリジン三座配位子[L]の自己集合で、M6L4の組成を持ったかご型錯体を構築することに成功した。このかご型錯体は、対角で 2 nmを超える構造を有しながらも、構成成分はいたって単純な有機配位子と金属イオンであり、しかもこれらの成分を単に混合するだけで瞬時にかつ定量的に生成する。100 gスケールでも極めて純度良く製造できることから、汎用性があり、試薬としても販売された(和光純薬工業株式会社)。また、この化合物は、外部は親水性、内部は疎水性であるため、水に高い溶解性を示すとともに、内部の疎水空間に複数個の中性(もしくはアニオン性)有機分子を強く捕捉する。その際には高い選択性も見られた。現在、特異な反応場としての利用を検討している。 
 

参考論文

  • "Self-Assembly of Ten Molecules into Nanometer Sized Organic Host Framework"
    M. Fujita, D. Oguro, M. Miyazawa, H. Oka, K. Yamaguchi and K. Ogura
    Nature 1995, 378, 469.

  • "A Self-Assembled M6L4-type Coordination Nanocage with 2,2'-Bipyridine Ancillary Ligands. Facile Crystallization and X-ray Analysis of Shape-Selective Enclathration of Neutral Guests in the Cage"
    T. Kusukawa and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 13576-13582.


カプセル状錯体の自己集合


 平板状の有機配位子をパネルに見立て、そのパネルを金属イオンで張り合わせながら多面体構造を作り上げる研究は、「分子パネリング」と呼べる新しい閉殻構造体構築の概念である。これまでに我々は、最も基本的な図形である三角形に着目し、合成した正三角形パネル状配位子を張り合わせることで、正六面体や正四面体構造を構築することに成功した。実際、正三角形の各辺に結合部位を2カ所ずつ配置したパネル状配位子[L]と(en)Pd(NO3)2錯体[M]の自己集合では、M18L6組成の正六面体カプセル構造が一義的に組み上がった。このカプセルは大きさが約3 nmに達するにもかかわらず、三次元的にはほぼ密閉された構造を有していた。また、同じ形で1辺に2カ所と2辺に1カ所の結合部位を配置したパネル状配位子からは、正四面体カプセル構造が組み上がった。
 

参考論文

  • "A Nanometre-Sized Hexahedral Coordination Capsule Assembled from 24 Components"
    N. Takeda, K. Umemoto, K.Yamaguchi, and M. Fujita
    Nature 1999, 398, 794-796.

  • "Molecular Paneling via Coordination: Guest-Controlled Assembly of Open Cone and Tetrahedron Structure from Eight Metals and Four Ligands"
    K. Umemoto, K. Yamaguchi, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7150-7151.

  • "Molecular Paneling via Coordination"
    M. Fujita, K. Umemoto, M. Yoshizawa, N. Fujita, T. Kusukawa, and K. Biradha
    Chem. Commun. 2001, 509-518.


ボウル状錯体の自己集合


(en)Pd(NO3)2錯体[M]とトリス(3-ピリジル)トリアジン配位子[L]から、M6L4の組成のボウル状(お椀型)錯体が自己集合した。この錯体は、かご状錯体と同じ分子式で示されるが、配位子の窒素の位置の違いだけで、構造が全く異なる。このボウル状錯体は、片側に開いた広い内部空間を有すため、2分子でカプセル状構造になり、その内部にo, p-タ-フェニレンやcis-スチルベンなどの巨大分子を4から6分子も包接することができる。
 

参考論文

  • "Nanometer-Sized Macrotricyclic Complexes Self-Assembled from Ten Small Component Moleules"
    M. Fujita, S.-Y. Yu, T. Kusukawa, H. Fumaki, K. Ogura, K. Yamaguchi
    Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1998, 37, 2082-2085.

  • "Hydrophobic Assembling of a Coordination Nanobowl into a Dimeric Capsule Which Can Accommodate up to Six Large Organic Molecules"
    S.-Y. Yu, T. Kusukawa, K. Biradha, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 2665-2666.


チューブ状錯体の自己集合


  「分子チューブ」とはその名が示すとおり内部空洞を持つ筒状の化合物です。このようなチューブ状の化合物としてカーボンナノチューブがよく知られています。1991年に発見されてから、ナノサイズを活用した次世代材料として電気化学特性や分子認識 ・貯蔵能などさまざまな機能や物性が研究されています。また、有機分子を骨格としてカーボンナノチューブにはない新しい機能を創出する試みがあります。例えば、生体分子であるペプチドやオリゴ糖、完全に人工的に作られた有機分子を基本骨格にさまざまな分子チューブが構築されています。また現在ではそのチューブ構造を活用した、イオンチャンネルなどに代表される物質輸送・ナノワイヤーなどの鋳型合成・選択的有機反応・バイオセンサーといった様々な方向での応用が展開されています。

 一方、私達は有機分子と遷移金属を単位構造として「配位性ナノチューブ」の研究を行っています。この一連の分子群は配位子とパラジウム錯体に棒状のテンプレートをまぜるだけで定量的に自己集合し、さらに直径だけでなく長さや遷移金属の規則的な配列まで精密に設計することができます。
 

参考論文

  • "Quantitative Formation of Coordination Nanotubes Templated by Rodlike Guests"
    M. Aoyagi, K. Biradha, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 7457-7458.

  • "PdII-directed Dynamic Assembly of a Dodecapyridine Ligand into a Mono End-capped Tube vs. a Doubly Composed Open Tube. Importance of Kinetic Control in Self-assembly"
    S. Tashiro, M. Tominaga, T. Kusukawa, M. Kawano, S. Sakamoto, K. Yamaguchi, and M. Fujita
    Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 3267-3270.

  • "Stabilization of a self-assembled coordination nanotube by covalent link"
    M. Tominaga, M. Kato, T. Okano, S. Sakamoto, K. Yamaguchi, and M. Fujita
    Chem. Lett. 2003, 32, 1012-1013.

  • "A 3.5 nm Coodination Nanotube"
    T. Yamaguchi, S. Tashiro, M. Tominaga, M. Kawano, T. Ozeki, and M. Fujita
    J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 10818-10819.


プリズム状錯体の自己集合


 遷移金属イオンと有機配位子の配位結合によって生じる「自己集合」は、通常では合成することが困難な精密な構造を、分子の自発的な集合によって構築することができるとても有効な手法です。
 しかしながら、このような自己集合性錯体のほとんどが1種類の配位子と1種類の金属イオンから構成されています。配位子が2種類ある場合や、さらに複数の成分が混在すると複雑な構造が多数生成し定量的な自己集合へとうまく制御することができなくなる場合が多く知られています。無機物からなる超構造の自己集合や生物学で見られる自己組織化の現象について理解を深めるためには、少なくとも2種類以上の配位子や金属イオンから明確な構造を与える系をつくる必要があります。また多成分からでもどんどん組み上がる方法がみつかると、いろいろな特徴・機能を持った材料を一度に組み込むことが可能になり「分子の精密機械」をつくることも夢ではありません。
 

参考論文

  • "Multicomponent Assembly of a Pyrazine-Pillared Coordination Cage That Selectively Binds Planar Guests by Intercalation"
    K. Kumazawa, K. Biradha, T. Kusukawa, T. Okano, M. Fujita
    Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 3909-3913.