インターロック化合物
分子マジックリング
分子の環と環が空間を介して連結した化合物は「カテナン」と呼ばれています。
このような構造は有機化学的にも無機化学的にもつくることが困難な「合成学的ターゲット分子」として長く知られていました。1983年になって、ソバージュ(フランス)らが銅を鋳型にする方法を、1988年にはストダート(現アメリカ)らが静電的相互作用を利用した合成法を報告し、カテナンは分子として化学の世界に出現しました。
1994年、私達の研究室では環状分子の自己集合を目指し、ある配位子とパラジウム錯体を水中で混ぜていました。その際、目的の環状分子の他に今までに見たこともない不思議な化合物が見えてきました。溶媒の条件をかえてみると、どんどんその化合物の量が増えて、最後は全てその化合物だけになりました。これが世界初のカテナンの定量合成であり、分子の環と環がすり抜けてつながる不思議な現象との出会いでした。この分子は、どちらかの環を壊すことなく、つなげたり、はずしたりすることができるため手品に例えて、「分子マジックリング」と呼ばれています。私達は自己集合を上手く活用することで世界が驚く構造、前例のない「ものづくり」に常に挑戦しています。
参考論文
- "Quantitative Self-Assembly of a [2]Catenane from Two Preformed Molecular Rings"
M. Fujita, F. Ibukuro, H. Hagihara, and K. Ogura
Nature 1994, 367, 720. - "Selective Cross-Catenation of Pd(II) and Pt(II) Coordination Rings"
A. Hori, H. Kataoka, T. Okano, S. Sakamoto, K. Yamaguchi, and M. Fujita
Chem. Commun. 2003,182-183. - "Quantitative Formation of [2]Catenanes Using Copper(I) and Palladium(II) as Templating and Assembling Centers: The Entwining Route and the Threading Approach"
C. Dietrich-Buchecker, B. Colasson, M. Fujita, A. Hori, N. Geum, S. Sakamoto, K. Yamaguchi, and J.-P. Sauvage
J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 5717-5725. - "A Circular Tris[2]catenane from Molecular 'Figure-of-Eight'"
A. Hori, K. Yamashita, T. Kusukawa, A. Akasaka, K. Biradha, and M. Fujita
Chem. Commun. 2004, 1798-1799. - "Ultramacrocyclization through Reversible Catenation"
A. Hori, T. Sawada, K. Yamashita, and M. Fujita
Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 4896-4899.
複雑なトポロジー
環と環が2つつながった[2]カテナンは20世紀の合成学的ターゲット分子でした。 同じように、今でもまだ誰もつくることに成功していない美しく複雑な幾何構造(トポロジー)があります。 折り紙や切り絵でもつくることが難しい「形」を、はさみもピンセットもない分子の世界で瞬時につくること、それが私達の合成学的挑戦です。
これまでに、2つの3次元の箱がインターロックした構造のほか、環と環が二重にインターロックした構造、環が3つ横に連結した構造を自己集合によりつくることに成功しています。 特に3次元の箱がインターロックした構造は私達が最初に達成した新しいトポロジーです。
参考論文
- "Spontaneous Assembling of Ten Small Components into a Three-Dimensionally Interlocked Compound Consisting of the Same Two Cage Frameworks"
M. Fujita, N. Fujita, K. Ogura, and K. Yamaguchi
Nature, 1999, 400, 52. - "Quantitative and Spontaneous Formation of a Doubly Interlocking [2]Catenane Using Copper(I) and Palladium(II) as Templating and Assembling Centers"
F. Ibukuro, M. Fujita, K. Yamaguchi, and J.-P. Sauvage
J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 11014. - "DOSY Study on Dynamic Catenation: Self-Assembly of a [3]Catenane as a Meta-Stable Component from Simple Twelve Components"
A. Hori, K. Kumazawa, T. Kusukawa, D. K. Chand, M. Fujita, S. Sakamoto, and K. Yamaguchi
Chem. Eur. J. 2001, 74142-4149.