研究室の紹介

料理人

 B級グルメの私がこんなことを語る資格はないと思うが、研究者はある意味料理人である。研究成果は食材(発見)と包丁さばき(プレゼン能力?)のかけ算で決まる。どんなに素晴らしい食材も、それをケチャップやマヨネーズで味付けしては料理は台無しである。逆に、そこらの定食屋の食材でも一流のシェフは高級レストランの料理に何とか仕上げてしまう。それもいかがなものかと思う。


 言葉は悪いが「二流」と格付けされる学術誌でも、注意してみると素晴らしい食材を報告している論文が結構見受けられる。この著者がどこかで包丁さばきをきちんと学んでいたなら、この研究はどこかの一流誌で日の目を見たのであろうなと思う論文はたくさんある。逆に、そこそこの食材なのに、一流の包丁さばきで一流誌や超一流誌に掲載されている論文も良く見かける。悲しい事に研究も経験を積んでいると、そんなことがすべて見抜けてしまうのである。


 学生さんにはプレゼンの重要性を良く話している。決して見栄えを良くする技術を教えている訳ではない。もし最高の食材に出会ったときに、その食材を台無しにするような味付けだけはしてほしくないと願って話している。その時のために、是非包丁さばきを鍛えてほしい。ついでに話しをすれば、プレゼンは研究データーが揃ってからまとめるものではなく、研究の最中にまとめるものである。出来上がりの料理の味をイメージしながら次の実験を計画して欲しい。


 そんな料理人の世界でも、私が想像するに彼らが求める最高の料理は、もしかしたら最高の食材を「塩味」だけで味付けすることかも知れない。大変リスキーな話しである。少しでも味が濃すぎれば、あるいは少しでも薄すぎればその料理は台無しになる。
気がついたら、無限に続くと感じていた自分の研究人生も、おぼろげながらにゴールを意識する年齢になってしまった。残された研究人生、もし神様が幸運を与えてくれるならそんな食材に出会ってみたい。その時は、自分の人生とプライドをかけて「塩味」で勝負してみよう。